こんにちは、モスです。
今回の記事のテーマは、筋肉痛です。
激しい運動や筋トレの直後は何でもないのに、一晩経って起きると、激しい筋肉痛を経験する方も多いのではないでしょうか?私自身も、日常的にベンチプレスやスクワットなどの筋トレをかなりの強度で実施しているため、次の日はほぼ必ずと言っていいほど筋肉痛との戦いです。
このように、典型的には、運動した次の日に遅れて現れる筋肉痛のことを、遅発性筋肉痛(delayed onset muscle soreness:DOMS)と呼ばれています。そして、その筋肉痛は通常1日から3日間でピークを迎え、約7日間以内に消えていきます。
また、筋肉痛だけでなく、DOMSの症状として、下記のような症状も見られます。
・ 筋肉痛に伴う関節可動域の減少
・ 筋肉痛の部分の肥大化
・ 筋肉の疲れとそれに伴う筋力の一時的な低下
今回、筋肉痛をテーマに深く調べてみようと思ったのは、
① そもそも筋肉痛ってなぜ起きる?
② 筋肉痛が起きないと筋肥大(筋力増加)はしない?
③ 筋肉痛を早く回復するには?
をクリアにしたいと思ったからです。
これまで、筋トレ後に筋肉痛がこないと、しっかり鍛えられていない気がして気持ち悪かったり、逆に筋肉痛がいい具合に起きると、筋肉が回復してる!とあたかもの超回復の途中経過みたいに感じている時期もありました。
筋肉痛については、多くの大学や研究機関が研究を進めており、数多くの論文が報告されています。今回もそれらの研究結果を引用(勉強)することで、より、うまく筋肉痛と付き合っていく方法を紹介できればと思っています。
筋肉痛(DOMS)の原因とは?
筋肉痛の原因は、100年来の謎
筋肉痛、特に遅発性筋肉痛(DOMS)という現象は、1902年に米国の研究者によって報告されたのが研究対象としての最初のようです。それから、100年以上の月日が経ちましたが、実は、DOMSの原因はまだ結論がでていません。
もう少し正確に言うと、いろいろとDOMSの原因と思われる現象は、いくつか特定はできているものの確定はできていない状況です。
現在のDOMSの原因として、比較的受け入れられている仮説は、
・ 筋繊維や筋内膜のダメージとそれに伴う炎症によるもの
・ (高強度の運動に伴う)筋繊維の肥大化によるもの
・ 活性酸素種による酸化ストレスによるもの
・ 筋紡錘(muscle spindle)に接続する神経のダメージによるもの
※用語:筋紡錘:筋肉中の筋繊維沿ってあり、筋肉の緊張状態を感知する機能を持っている部位。神経と連絡しており、脊髄反射を介しての姿勢・運動の調節に関わる
ほかにも、細かく分類すると他にも仮説が展開されていて、これを俯瞰して理解するのは相当にハードです。
ただし、最近の研究報告を読み解くと、
筋肉痛(DOMS)の原因は筋繊維のダメージそのものというよりは、筋肉に接続されている神経のダメージによるものではないかというのが、トレンドのようです。
もう少し、そのメカニズムについて、いくつかの論文を引用しながらまとめていきたいと思います。
筋肉痛のメカニズム
筋肉痛のメカニズムのキーワードは、炎症と神経です。上でも赤文字にしてます。
高強度トレーニング、慣れていない運動、特に伸縮性の筋トレなどによって、その部分の筋繊維が損傷し、炎症が起こります。炎症は、細胞や組織が破壊された際に、これを取りのぞき、再生するための反応で、体の修復・回復プロセスの一部です。その過程で、好中球とリンパ球などの免疫細胞(immune cells)が、炎症の起こる部位に集まります。
免疫細胞は、ある種の物質を生産し、その物質は、神経末端の感受性を上げます。過敏になった神経は、脳に信号を送信し、それがある種の筋肉痛として知覚されるようになります。
痛覚を脳に送る神経は、筋繊維の間や筋肉と腱の接合部などの、いわゆる結合組織(connective tissue)に多く見られます。
つまり、痛みの原因は、筋肉そのものからというよりは、痛覚を脳に送る神経が多く存在する結合組織から起きているとも言えます。
ここまでをまとめると
筋トレ等によって、その部位が炎症を起こし、それが筋肉にある神経に伝わって痛みとして知覚される
ここで述べたDOMSのメカニズムは、下記(1)~(3)に報告されており、比較的広く認識されているのではないかと思います。
ただし、下記の比較的新しい2016年の論文では、もちろん筋肉へのダメージがDOMSが起きるのに十分な条件だが、筋肉へのダメージがなくてもDOMSが起きる=必要条件ではないとしています。
Delayed onset muscle soreness: Involvement of neurotrophic factors
意訳:遅発性筋肉痛(DOMS):神経系因子の関与について
The Journal of Physiological Sciences volume 66, pages43–52(2016)
いづれにしても、痛みを感じるのは、筋肉そのものではなくて、そこに接続している神経ということです。
2020年に出された最新の仮説
最後に、2020年に出された論文が、DOMSの原因に関して、さらに突っ込んだ内容で報告しているのでまとめてみました。
紹介する論文は、タイトルもなかなか突っ込んでいて個人的にはおもしろいと思っています。DOMSが発見されてから、今に至るほぼ100年の歴史を、見ようによっては、全否定しているような書き方に、逆に内容を知りたくなります。
Have We Looked in the Wrong Direction for More Than 100 Years? Delayed Onset Muscle Soreness Is, in Fact, Neural Microdamage Rather Than Muscle Damage
意訳:我々は、100年以上も間違った方を見続けていたのだろうか?遅発性筋肉痛(DOMS)の原因は、筋肉のダメージというよりは神経のダメージという事実
Antioxidants (Basel). 2020 Mar; 9(3): 212.
この論文による結論(著者らの仮説)を先にまとめます。
遅発性筋肉痛(DOMS)は、
筋肉中の横紋筋(muscle spindle)にある神経末端が、急峻な圧迫によるダメージ=軸索障害(axonopathy)を受けることによって発生する
この神経末端へのダメージは、特に慣れていない運動時、高強度トレーニング時に起きやすいとされています。また、筋肉が引き延ばされるような運動、すなわち伸張性運動(エキセントリックトレーニング)によって、神経末端がより強い圧迫を受けます。
神経末端が圧迫を受けることによって、そこにミクロなダメージ(microinjury)が付加されます。これによってDOMSの症状が現れます。
DOMSによって、一時的な筋力の低下や関節の可動域の減少が見られます。これは、神経末端がさらなるダメージを避けるためのいわゆる安全装置が働いているためと言われています。
この安全装置の仕組みは、脳に信号を送る神経の情報伝達速度が、DOMSにより大きく低下することによるものです。筋活動は脊髄中のα運動ニューロン(α-MotorNeuron:α-MN)の興奮から始まりますが、α-MNへの信号が少なくなり、結果として、一時的な筋力の低下へと繋がります。
この仮説は、先に説明された、筋肉に実際にダメージが無くても、DOMSが生じること。そして一時的な筋力の低下が起きることとも整合します。
すなわち、DOMSに至る過程を再度まとめると
①筋肉が伸ばされること、エキセントリックな運動によって、そこにある神経末端がより強い圧迫を受ける
②特に繰り返しの刺激により、神経末端にミクロがダメージが入る(必ずしも筋肉そのものにダメージが入っている必要はない)→遅発性筋肉痛(DOMS)が発生
③神経末端のさらなるダメージを防ぐ防御機構が働き、一時的な筋力の低下や関節可動域の減少が生じる
そういう意味で言うと、筋力は精巧に、脳によって制御されていて、必要以上の力が出せないようになっているということです。
参照文献
(1)Myofibre damage in human skeletal muscle: effects of electrical stimulation versus voluntary contraction
J Physiol. 2007 Aug 15; 583(Pt 1): 365–380
(2)CHANGES IN TISSUE DEGRADATION MARKERS AND SUBJECTIVE REPORTS OF PAIN RESULTING FROM ECCENTRIC MUSCLE CONTRACTIONS
Biol Sport. 1996; 13(1): 13–20
(3)Acute inflammation: the underlying mechanism in delayed onset muscle soreness?
Med Sci Sports Exerc. 1991 May;23(5):542-51.
筋肉痛が起きないと筋肥大(筋力増加)はしない?
筋肉痛と筋肉のダメージと筋肥大の関係
まず、結論です。
筋肉痛は筋肥大の重要な要素の1つと考えられているが、筋肉痛が起きなくとも、筋肥大(筋力増加)は可能
先の論文にも記載がありますが、筋肉痛(DOMS)がトリガーとなって、筋力増加に寄与することが示唆されています。
さらに、すでに筋肉痛(DOMS)が筋肉のダメージでは必ずしもないことは説明しましたが、筋肉のダメージが無くとも、筋肥大(筋力増加)することがいくつか報告されています。
例えば、こちらの論文
The development of skeletal muscle hypertrophy through resistance training: the role of muscle damage and muscle protein synthesis
意訳:レジスタンストレーニングによる筋肥大:筋肉へのダメージと筋タンパク合成の役割
Eur J Appl Physiol. 2018 Mar;118(3):485-500
では、レジスタンストレーニングによる筋肉へのダメージの有無にかかわらず、同程度の筋肥大が起きることが報告されています。
筋肥大(筋力増加)に必要な要素
2010年のBrad J Schoenfeldによる報告(筋肥大のメカニズムと要因)と先の論文を総括して、筋肥大(筋力増加)の3要素をまとめました
筋肥大(筋力増加)の3要素
① 筋肉への負荷
➁ メタボリックストレス(代謝的負荷)
③ 筋肉へのダメージ → 遅発性筋肉痛(DOMS)
ポイントは2つあって、
1つ目が、筋肉へのダメージではなく、DOMSとしたことです。レジスタンストレーニングなどによって、筋肉への負荷・ダメージを与え、それが回復することで従来よりも徐々に強くなっていく。これが従来考えられてきた筋肥大、筋力増加のプロセスです。
現在は、筋肥大(筋力増加)には、必ずしも筋肉へのダメージが必要無いことがわかってきています。一方で、DOMSは先に述べたように、これがトリガーとなって、筋肥大(筋力増加)を誘起することが示唆されています。
2つ目が、特に重要なポイントで、従来、筋肉への負荷、すなわちメカニカルストレス(機械的負荷)によって、体がそのストレスに対抗(対応)しようとして筋肥大が起こると考えられてきました。
現在は、上記だけではなく、②のメタボリックストレスが筋肥大に重要な役割を果たしていることがわかってきました。
メタボリックストレスとは、ある種の酸素欠乏性の運動が、体内の代謝生成物※(metabolites:代謝に関わるおよそ1500Da以下の分子)の濃度変化を起こし、それが蓄積することによって、筋肥大が起こるというものです。
※ここでの代謝生成物の代表的なものに乳酸、α-ケトグルタル酸、ホスファチジン酸、リゾホスファチジン酸、そして、よく耳にする分岐鎖アミノ酸であるロイシンも挙げられます。
このメタボリックストレスの示唆するところは、
・ 血流制限トレーニング(BFR:blood flow restriction)による筋肥大の可能性
・ 低負荷(1RM 20-50%)、高回数(15-30)による筋肥大の可能性
従来の比較的高負荷(1RM >80%)で筋肥大を促すという理論とは、まったく異なりますが、確かにある世界トップレベルのパワーリフターの方も上記のトレーニング方法について言及していることもあって、かなり気になるトレーニング方法です。
下記に、理論などが詳しく報告されていますが、メタボリックストレスと、またこの理論をベースにした血流制限トレーニングや低負荷、高回数トレーニングについては、別途記事にまとめたいと考えています。
Potential mechanisms for a role of metabolic stress in hypertrophic adaptations to resistance training
Sports Med. 2013 Mar;43(3):179-94
Stimuli and sensors that initiate skeletal muscle hypertrophy following resistance exercise
J Appl Physiol (1985). 2019 Jan 1;126(1):30-43
筋肉痛から早く回復するには
筋肉痛(DOMS)を回復する唯一の方法は、休むことです。
一方で、その痛みを軽減したり、DOMSによって起きる一時的な筋力の低下をより早く回復させる方法がいくつか報告されています。
1.マッサージ
マッサージは、非常にオーソドックスな方法であり、かつ学術的にも多くの研究がされ、検証されている手法です。
これについては、詳しく語る必要はないと思いますが、セルフでもできるマッサージとして、個人的にはフォームローラーがおすすめです。
私自身もベンチプレスのMaxが150kgを超えた辺りから、トレーニングのボリューム(1日のトータル挙上重量がおおよそ2500kgから4000kg程度)がかなり増え、次の日からの筋肉痛が3日経ってもかなり残ることが多くなりました。
フォームローラ―を取り入れると、次の日の筋肉痛が実感できるレベルで軽減したので、それ以来、高負荷のトレーニング後は、必ずフォームローラーを使っています。フォームローラ―の効果については、記事としてもまとめていますので、興味あれば、ぜひ参照ください。
2.お風呂(ホットバス)
シャワーだけでなく、お風呂がついているジムも結構ありますよね。実は、お風呂につかるだけでも、十分にDOMSを軽減する効果が報告されています。
くわしくはこちらの論文などを参照ください。
3.アイシング(コールドバス)
こちらも説明するまでもないアイシングです。
下記のコールドバスに関するメタアナリシスの結果では、10-15℃の水に10-15分部位をつけるのがベスト条件とのことです。ただし注意点として、16分以上では、逆に悪影響もあるという結果になっていることから、安全目に見て10分以内を目安にするのが現実的かと思います。
Can Water Temperature and Immersion Time Influence the Effect of Cold Water Immersion on Muscle Soreness? A Systematic Review and Meta-Analysis
Sports Med. 2016; 46: 503–514
4. サプリメント(食事で足りない分)
栄養をしっかり取ることがやっぱり重要です。基本は食事からしっかりと必要な栄養は摂取したいですが、高負荷のトレーニングでは、どうしても足りない部分が出てくると思います。
個人的なお勧めはグルタミンです。取るタイミングは、トレーニングの後や就寝前です。詳しくは、これもエビデンスベースで記事にまとめていますので下記参照ください。
その他、カフェインやタウリンなども、DOMSを抑える効果があるということで、必要に応じて活用するのが良いかと思います。下記論文などが参考になると思います。
A review of nutritional intervention on delayed onset muscle soreness. Part I
J Exerc Rehabil. 2014 Dec; 10(6): 349–356.
いくつか筋肉痛(DOMS)を軽減する方法を紹介してきました。しかし、DOMSは、筋肉中の神経末端のミクロなダメージに起因するとすると、きちんと休んで回復させるのが基本です。
紹介した方法に凝り固まるのではなく、自分のDOMSの状態を見ながら、トレーニングの頻度を見直すなど臨機応変に対応することが大事です。また、筋肉痛が7日以上続く、腕や足がひどくむくむようであれば、場合によっては、お医者さんに診てもらうなど対応が必要です。
今回、筋肉痛(DOMS)について、筋肉痛のメカニズムや、筋肉痛と筋肥大の関係、そして筋肉痛を早く回復する方法についてまとめ紹介してきました。筋肉痛は、身近にありながらも、想像していたよりも複雑で、まだ分かっていないことが多い分野です。逆に言うと、今も研究が活発に進められていて、これからも理論や方法の進歩が望める非常に面白い分野であることがわかりました。また、新しい研究結果が報告されましたら、紹介していきたいと思います。
最後まで、本記事を読んでいただきありがとうございました。もし、不明点や、疑問点等ありましたら、遠慮なく、お問い合わせや、ツイッターのDM等でお知らせいただければと思います。